第37回世界新体操選手権レポート8

報告者:山﨑浩子

9月22日、世界新体操選手権バクー大会最終日は団体種目別決勝が行われた。
昨日、44年ぶりの団体総合銀メダル獲得を成し遂げた日本(フェアリージャパンPOLA)であるが、種目別決勝に向けて気持ちをゼロに戻して試合に臨んだ。

<ボール5>
試技順1番はイタリア。
団体総合では2種目とも大きなミスを犯してしまったイタリアは、種目別決勝でなんとかメダルを獲りたいところ。しかし、出だしのダイブロールで体勢を崩したキャッチとなり、なんとなくリズムが悪い。すると、前転をしながら膝の裏でキャッチする非常に難しい交換で落下。
ボールが場外まで転がって行って予備手具に差し替えた。
一気に不安が押し寄せたのか、連係の視野外キャッチで落下。
波に乗り切れないまま演技を終えた。
D1(BD身体難度、ED交換、Sステップ)5.4
D3(C連係、Rリスク=手具を投げ上げ、2回転以上の転回を行う)14.0
E(実施) 6.800 P場外ペナルティ0.3 計25.900

試技順2番はブルガリア。
連係のキャッチで少し移動があったが、テーマ性のある作品で、昨日より迫力もある演技だった。複数投げの高さが少々低いので、その分のカウントがないと思われるが、素晴らしい出来であった。ラストポーズが少々曲に遅れたか、タイムオーバー。2分32秒で0.1のマイナスとなった。
D1 5.8
D3 14.9
E  8.750 P0.1 計29.350

試技順3番はベラルーシ。
前半はうまく決めていたが、連係で移動キャッチが出るとリズムが狂い始め、足の甲でボールを挟んでの足投げで落下。BDのパンシェローテンションでは動脚が大きく揺れ、交換のキャッチが不正確になり、連係で落下と、完全にリズムを崩した。
そのせいで直後の連係をやれず、大きなミスが続いた。
D1 6.2
D3 13.3
E 6.600 P0.3 計25.800

試技順4番日本。
日本は出だしからきっちりと片手受けを決め、昨日より良い入りをした。
昨日と同様に次々と連係を決め、手以外、視野外のキャッチも果敢に挑戦していく。
昨日、投げて転回をした選手がキャッチをしなかったことでノーカウントになったところがあるが、そこはやり方を若干変えて、ミスが発生しない方法をとった。
よどみない演技で、ラストの連係も決め、すばらしい出来を見せた。
D1 5.9
D3 15.0
E 8.650 計29.550
実施点で今季初めて8.5以上の得点を出し、合計点でもボールのチームベストスコア。
ミスのなかったブルガリアを0.2上回って、トップに立った。

出場選手
杉本早裕吏
松原梨恵
竹中七海
鈴木歩佳
熨斗谷さくら

試技順5番ウクライナ。
ウクライナは出だしの連係で落下。交換でも大きく移動。連係の投げが乱れ、落下。
全体的にウクライナの良さが見えなくなった。またなんとなく下半身が緩い感じがするのだが、連係を詰め込むあまりに、脚まで神経がいっていない感じがした。
D1 5.3
D3 13.2
E 6.300 計24.800

試技順5番ロシア
昨日は30.000を取っているだけに、落下がなければロシアが上に立つと予想される。
前半は昨日より落ち着いて見えた。いつも感じる選手の不安感のようなものも見えず、パンシェローテーションもしっかりと決めた。
しかし、昨日と同じ個所の投げが乱れ、転がりながらなんとかキャッチ。もう1箇所も昨日とまったく同じ個所で投げが乱れ、大きく移動してキャッチを試みた。だが昨日はキャッチできたが、今日はわずかにこぼれて、落下。

そして電子掲示板に表示された得点は28.150。
D1 5.6
D3 14.4
E 8.150 計28.150

ロシアは日本を超えることができず、日本はトップのまま。
残る中国は大きなミスなく、26.800。
イスラエルもミスなく、26.950。

日本団体は世界選手権で史上初めて金メダルを獲得した。

<フープ3&クラブ2>
試技順1番はブルガリア。
ブルガリアの入りは、私の目になんとなく引っかかる選手がいて、その選手を目で追っていた。
するとその選手が交換のクラブの2本投げをしたのであるが、2本の回転が大きく乱れた。
本来はもぐり回転でキャッチするところを、沈み込みながらなんとかキャッチ。
最後まで耐えて落下は防いだがいくつか投げが低いと感じる箇所があった。
D1 6.1
D3 14.0
E 8.750 計28.850

D3スコアが伸びず、29点台に乗せることができなかったが、インクワイヤリーは出さず。

試技順2番アゼルバイジャンは大きなミスなく26.450。

試技順3番はロシア。
ボールの金メダルを日本に奪われただけに、ここはなんとしても金メダルがほしいところ。
入りはとても落ち着いていて、連係の移動はあるものの昨日失敗した箇所もクリアした。
フープの3本投げが1箇所に寄ってしまい、3人がどれをキャッチするかでワサワサしたが、大きなミスはなかった。
D1 6.2
D3 14.8
E 8.450 計29.450

この点数は優勝するのに微妙なところ。まだベラルーシや特にイタリアが控えているため、追い越される可能性もある。

試技順4番の中国が大きなミスなし。
D1 5.2
D3 13.0
E 8.050 計26.250
インクワイヤリーを出したが得点の変更なし。

試技順5番ベラルーシ。
連係の投げが大きくなり、ジャンプしながらキャッチする場面はあったが、大きなミスなし。
エネルギーも感じられた。
D1 6.2
D3 14.4
E 8.500 計29.100
ロシアに0.35及ばなかった。

試技順6番イタリア。
イタリアは団体総合の2種目でミス。種目別決勝のボールでミスと良い結果を出せていなかったが、このフープ3&クラブ2はリズムが非常に良かった。
投げの乱れや移動も少なく、最後になってしっかりと決めてきた。
D1 5.9
D3 14.7
E 8.600 計29.200
ロシアまでわずか0.250。

試技順7番日本。
今日の連係の入りも非常に良い。
昨日よりほんの少し投げが乱れているが、動きでカバーして乱れを感じさせない。
もぐり回転でのフープの2本投げは、2本がとても寄ってしまったが、キャッチする2選手のあうんの呼吸により、問題なくキャッチ。
昨日と同様に、連係に次ぐ連係も間髪入れずに決めて、ラストポーズ。
フロアーの中で一瞬、力尽きたような感じも見せたが、すぐに立ち上がり、大勢の観客や日本からはるばる来てくださった応援団に手を振った。
キッス&クライに向かい、インナヘッドコーチや山口留奈コーチとハグをしながら大粒の涙。
やり切ったという達成感に浸っていた。
そして出た点数は29.400。
D1 6.2
D3 14.9
E 8.300 計29.400

ロシアまでわずか0.05差。ロシアに肉薄したのはイタリアでもブルガリアでもなく、日本であった。そしてフープ3&クラブ2もこの種目のチームベストスコアを出した。
出場選手
杉本早裕吏
松原梨恵
竹中七海
鈴木歩佳
横田葵子

試技順最後のイスラエルは26.500。

日本はロシアに次いで銀メダルを獲得。

終わってみれば、
団体総合で44年ぶりの銀メダル獲得
団体種目別決勝ボール5で史上初の金メダル獲得
団体種目別決勝フープ3&クラブ2でロシアと0.05差の銀メダル獲得

金メダル1つ、銀メダル2つを獲得し、すべてにおいて表彰台に乗ることができた。

日本の勝利は、D3争いを制したことが大きな要因である。
D3が青天井になったことで、団体はどこの国も連係を詰め込んでくるようになった。
日本も6月のアジア選手権種目別でウズベキスタンに負けたことにより、D3の得点をいずれの種目も4点ほど増やした。テンポを速くして連係を増やし、複数投げ、複数人、手以外、視野外など、ありとあらゆる加点要素を盛り込んだ。

約1か月後のWCCミンスク大会、カザン大会、ポルチマン大会を経て、構成の整理をし続けてきた。投げの高さが低いと言われれば、高さが出るやり方に変え、とにかく勝つための努力をしてきた。審判本部と協力をしながら、見える課題をクリアしていき、この世界選手権を迎えたのである。
しかし、いくら構成上で加点ポイントを盛り込んでも、それをやり切れるかどうかは話は別。
消極的になって、不安なものを少しずつやめていったら、合計で1点ぐらいはすぐなくなってしまう。

そんな中で、0.1の獲得にこだわり、この世界選手権という大きな舞台で自分たちの力を発揮できたことは称賛に値する。ポテンシャルや手具操作などの技術力は劣っても、自分たちのプログラムを最大限に表現したという点では、日本は今大会で一番であった。
そんな選手たちに改めて拍手を送りたい。

東京オリンピックへの道はつながった。
しかし、世界選手権でメダルを獲ったからといって、オリンピックでメダルを獲れる保証などどこにもない。日本の快進撃に対して、各国はこれまで以上に力をつけてくるであろうし、おごる気持ちがあれば足元をすくわれる。

個人競技の選手も団体競技の選手も、まだまだ上をめざせる力がある。
その力を信じて、歩いていくのは選手たち自身である。
道に転がった石は誰も取り除いてくれない。
目の前に現れる壁は誰も壊してはくれない。
自らが石を取り除き、自らが壁を壊して道を進んでいかなければならない。
それができる選手たちであると、私は信じている。

最後に、
遠くアゼルバイジャンまで応援に駆けつけてくださった応援団の声援や日本から送られる応援は、選手たちの大きな力になったに違いない。
また、今大会は出場できなかったが日本で練習を続けている選手たち、ここに至るまでにパワフルでかつ細やかな指導をしてくださったインナヘッドコーチ、甘えそうになる選手たちをグッと引き上げた山口コーチ、日本で日頃からサポート体制を敷いてくれているコーチングスタッフ、メディカルスタッフ、審判員の方々、いつも支援、協力してくださっている企業、学校その他関係各位、これまで道をつないでくださった選手・コーチ、すべての方々にこの場をお借りして深く御礼を申し上げたい。