第31回世界新体操選手権モンペリエ大会現地レポート5
現地9月23日、第31回世界新体操選手権モンペリエ大会5日目は、個人総合決勝が行われた。24人が出場できるが、日本からただ一人決勝に進出した山口留奈は、予選24位で残った選手。
今大会でオリンピックの切符を獲得するには15位内に入らなければならないが、予選の点数の出方を見ていると、26点の中盤を出さなければならず、山口にとっては厳しい戦いであると予想された。せめてひとつでも26点に乗せ、審判に好印象を与え、テストイベントにつなげられればという思いであったが、山口は予選より数段良い演技を行った。
最初の種目はフープ。前半は投げが乱れ、対処におわれた。へたをすると3回落下してもおかしくないぐらいのところを、ふんばって落下は防ぎ、後半からは落ち着いて演技できていた。25.200。
これで少しずつ波に乗り、ボール、クラブとさほど投げに乱れもなくなっていった。(ボール25.850)クラブは、難度点は伸びなかったが、出来としては自身、1番の出来で、やっと本来の山口の調子に戻ってきたという感じであった。25.500
最終種目のリボンは、リスクのキャッチまでの間が空いてしまったが、得点は25.950。26点にはあと一歩足りなかったが、精一杯の力は出せたと言えよう。トータル102.500。
山口が出場した予選13位から24位グループで目立ったのは韓国のSONと中国のDENG。SONはロシアに強化拠点を置き、ここ最近ぐっと伸びてきた選手。いわば新体操界のキム・ヨナで、愛らしい顔、正確な難度のこなしと明確な手具操作、はっきりとした動きで、誰もが応援をしたくなるような選手である。フープだけ若干のミスが出たが(26.625)、ボール27.075、クラブ27.150、リボン26.900と高得点を連発。最終種目のクラブの演技の時は自然と会場から手拍子が沸き、ミスなく演じると、コーチたちが抱き合って喜んでいた。トータル107.750。このグループで1位となり、予選1位から12位グループがそのまま上位に位置したとしても五輪の出場枠獲得を決めたことになる。
このグループで2位となったのが中国のDENG。SONとはまた違った魅力がある選手で、難度や動きの伸びやかさは、トップグループとも引けを取らない。ジャンプも軽やかで、ピボットも正確。投げにもまったく躊躇がなく、非常にパワフルでダイナミックである。彼女の持つ「しなり」はSONよりも上で、見ていて気持ちのいい演技であった。トータル105.900
このグループ3位になったのがイタリアのCANTALUPPI。プロポーションや柔軟性などの身体能力には恵まれていないが、リスキーな技を行って、五輪出場枠を獲得した。105.575
そして予選1位から12位グループの個人総合争いは、実に面白いものとなった。
まずはロシアのKANAEVAのクラブは、ボレロの曲に乗せ、迫力のある演技を見せる。予選の時より動きの精度も良く、29.400を獲得。
負けじとロシアのKONDAKOVAも、フープでほぼミスのない演技を見せる。動きのスピード、キレは抜群で、思わず身を乗り出して見てしまうほど。29.450でカナエバを0.05上回った。
1種目目3位に位置したのはブルガリアのMITEVA。正確な難度の実施とていねいな動き、表現で28.325。メダル候補のアゼルバイジャンのGARAYEBVAをわずかにリードした。
KANAEVAの2種目めはリボン。神業と言ってもいいほど、リボンが生き物のように動く。ため息が出るような演技で29.500。
KONDAKOVAの2種目めはボール。得意のピボットも決めていたが、MGキックターンで大きくぐらつき、28.550。
2種目のトータルはKANAEVAが58.900でKONDAKOVAが57.950。1点近く差が開いてしまった。
3種目めのKANAEVAのフープは、フープの足回しができなかったが大きなミスはなく29.200。
KONDAKOVAのクラブは完璧で29.350。
3種目のトータルがKANAEVA88.100、KONDAKOVA87.300。
だいぶ追い上げはしたが0.8の差はかなり大きい。
ところがドラマは最終種目にあった。
KANAEVAはボールの種目で、MGキックターンで腰がぐにゃりとつぶれ、乱れが生じてしまう。審判員の評価として、この分の難度点を加算しない、とするか、難度点は加算して実施で減点する、ということになるかでだいぶ点数は変わってくるが、KANAEVAの得点は28.550。難度点は加算されなかったようで、ここで一気にKONDAKOVAの優勝の可能性も出てきた。
KONDAKOVAが29.350を出せば、KANAEVAと並ぶことになり、不可能な数字でもない。 そしてKONDAKOVAはそれを知ってか知らずか、ノリノリの演技をした。勢いは誰よりもあり、わくわくするような演技である。
誰もがその勢いに吸い込まれそうになっていたときだった。勢いが災いしてリボンの描きが強くなりすぎ、リボンに結び目が・・・・さほど影響の出るような結び目ではなかったために最後までほどくことなく、何事もなかったかのようにエネルギッシュに演技したが、得点は29.300。
わずか0.05及ばず、KANAEVAが優勝。小さな結び目が命取りになってしまった。
それでも今大会のKONDAKOVAは、1番のオーラを放った。KANAEVAとは対照的な、攻撃的・野性味溢れる演技で、ファンを魅了した。
KANAEVAにしてもKONDAKOVAにしても、勝負とは違う世界で、観客に魅せるということに徹しているように思えた。
もうひとつのドラマは銅メダル争い。ブルガリアのMITEVAは3種目めまで完璧な演技だった。どこも減点するところがないというほど、ていねいに正確に、そして情感たっぷりに演技し、身体能力の高さを誇るアゼルバイジャンのGARAYEBVAをリードし続けた。
しかし、やはり最終種目。MITEVAは、フープの二度投げが少し後ろに行ってしまう。決して取れない距離ではなかったが、キャッチし損ねて、フープが場外に。一瞬フープを追いかけたが、1mのポディウム上にフロアーが設置されているため、フープは台の下に落ちてしまう。追うのをあきらめたMITEVAは、予備手具と差し替えて、演技を続行。25.600で一気に7位まで落ち、3位にはGARAYEBVAが入った。
4位にはベラルーシのCHARKASHYNAが、ウクライナのMAKSYMENKOは魅力溢れる演技で5位に入賞した。6位はベラルーシのSTANIOUTA。
上位に入ることが予想されていたカザフスタンのALYABYEVAはフープのバランスの転がしで、フープを場外。それを、自分も場外まで出て追いかけたが間に合わず、フープは台の下まで落ちていってしまう。
予備手具を使おうと思ったALYABYEVAはフロアーの方に戻りかけたが、予備手具を置いていなかったことに気づき、ふたたび落ちていったフープの方へ。台を飛び降り、フープをとって台に飛び乗り、フロアーに走って演技を続けるという、なんとも大変な作業をこなした。23.700はフープの最低点で、この結果オリンピックの出場枠を逃してしまうことになった。
地元フランスのLEDOUXも苦しい戦いだった。割れんばかりの拍手と歓声。ひとつ手具を投げ上げるたびに、きーーーーっという金切り声があがり、LEDOUXに寄せられる期待の大きさに、彼女自身がつぶされそうであった。クラブでは身体がカチコチで、三度も落下。
それでも最後の種目フープでは、伸びやかな演技をみせて27.500を獲得。演技を終えると涙が止まらなかった。総合12位でオリンピックの出場枠を無事獲得し、彼女の肩にのしかかった重みをやっとおろすことができ、オーロラビジョンに映し出された彼女の涙を見た観客からの拍手は、いつまでも鳴り止むことはなかった。
今大会の個人総合は、新体操の醍醐味を存分に味あわせてくれた。
1回のミスでメダル争いから転落する選手。オリンピックへの切符がすり抜けていった選手。本番で力を出し尽くすことの難しさを教えてくれ、だからこそ新体操は面白いのだと改めて認識させてくれた。
KANAEVAやKONDAKOVA、MAKSYMENKOにSON・・・勝負ではあるが、観客を楽しませることに、そして自分自身が演技を楽しむことができた選手の活躍が光った大会でもあった。
明日は団体総合。日本からはフェアリージャパンPOLAが出場する。