第30回世界新体操選手権・モスクワ大会現地レポート(個人総合)
24日、予選を勝ち抜いた24名(各国最大2名)による個人総合決勝が行われた。
日本からは予選を20位で進出した大貫友梨亜が出場。順位を一つでもあげること、および26点に少しでも近づけることが目標であったが、出だしのリボンは昨日と同様、少々身体にキレがなく、演技の序盤でリボンを落下。リボンが身体にからまってしまう。そこからは冷静に判断して大きなミスはなかったが、24.350の得点となってしまった。
続く2種目目のロープは、大貫本来の力強さが戻ってきて、難度もよく我慢し、25.350。
尻上がりに調子を取り戻してきて、フープでは非常によいパフォーマンスを行った。しかしながら、ラストのリスクでフープを抜けてキャッチしながら、直後にフープが身体から離れてしまい、24.700。
ラストの種目はボール。コントロールシリーズで26点台を獲得した種目だけに、なんとか踏ん張りたいところであったが、その通り、大貫はていねいな演技を行った。日本から応援に駆けつけてくれた応援団や日本で声援を送ってくれている方々への感謝の気持ちがあふれ出るような誠実な演技で25.525。予選、決勝を通じて初めて芸術点で8.50を獲得し、順位も一つあげて19位だった。25点台に乗せても、芸術点が8.35どまりだったものが、この8.50に乗せられたことは大きい。まだまだ他の国の選手に比べれば、自分の作品をアピールするという点では弱いので、その点を克服できれば、芸術点をアップできるようになるであろう。
予選、決勝を通じて、日本選手のD(難度)の評価は高かった。大貫にしても山口にしても、ミスしても8点台をキープできており、良ければ8.50から9.00の間の点数を得られた。ともすればトップグループより点数が高い場合もあったが、選手たちが難度を正確にやりきろうとする姿勢、D2(手具操作)を抜かずにやろうとする姿勢が見えた。
以前であれば、ミスをすればとたんに7点台、6点台だったことを考えると、格段の進歩である。コントロールシリーズの成果は、Dの得点アップにあったと思われる。
しかし、芸術や実施において、トップグループに学ぶべきことは非常に多い。そつなくこなすだけでは芸術は評価されない。今後、動きの間やキレ、アピール性を持つことで、常に8.50以上を得られるようにしたいものである。
個人総合決勝の見所は、カナエバ、コンダコバの戦い(ともにロシア)。そしてベラルーシのチャルカシナ、スタニュータ、アゼルバイジャンのガライエバ、ウクライナのマキシメンコの3位争い。
この中で最初に登場したのはマキシメンコ。
ベッソノバが引退し、ウクライナの勢力が落ちるかと思われたが、団体から転向したこのマキシメンコは抜群の表現力で、昨年からすると、弱さというものがまったくなくなっていた。
4種目を通じてほぼミスもなく、ベッソノバのいない寂しさを感じさせない演技であった。ベッソノバより難度が正確な分、このマキシメンコはより成長をとげていくであろう(総合5位)。
3種目合計の3位で決勝に臨んだチャルカシナは、ミスが相次いだ。ロープで落下。フープでの見せ場、足キャッチでもミスして場外。リボンで落下といいところがなく、10位に沈んだ。
スタニュータとガライエバの3位争いは熾烈だった。スタニュータは、決勝にあわせてきて、予選よりずっとキレが良く、身体の軸の乗りも良かった。リボンではユニットのピボットで若干跳んだが、勢いが戻ってきて27.750。ガライエバのフープはフープの跳びで引っかかったが、難度の精度が良く、27.300。
2種目目は、スタニュータがロープ。バックルピボットでぐらつき、ラストが曲に遅れて27.275。ガライエバはボールをほぼミスなく演技して、27.750と互角の勝負を見せる。
3種目目はスタニュータがフープ。フープがすんなりと手につかない箇所はあったが、彼女の持ち味であるコサックピボットからのパンシェピボットもしっかり決まり、27.700。ガライエバはリボンで、ユニットピボットが少し崩れたものの、演技の大きさがあり27.800。この時点でガライエバが0.125上回っていた。
最後の種目はスタニュータがボール。ユニットピボットが少し崩れ、27.625。4種目合計で110.350。ガライエバが27.500を超えればガライエバがメダルを獲得でき、今日のガライエバならやれそうな勢いがあった。
しかし、何があったのだろう。すべての難度を正確にこなしていたガライエバが、ジャンプの寸前に足を滑らせ、バックルのジャンプを行うことができなかった。得点は27.450で、スタニュータに0.05及ばず、スタニュータが銅メダルを獲得した。
最大の見所はカナエバとコンダコバのチャンピオン争いであるが、1種目目はお互いにリボンの種目から。
しかし先に登場したコンダコバは、すばらしいピボットを見せながら、落下ミスを犯してしまう(28.400)。対してカナエバは、緊張気味ながらもうまくまとめて28.850の得点をたたきだした。
2種目目のロープでは、コンダコバが迫力ある演技を見せれば、カナエバはリスキーな手具操作をふんだんに使って勝負する。コンダコバが28.675でカナエバが28.950で、ここでもカナエバが一歩リードした。
3種目目はフープ。コンダコバもカナエバもまったく無駄のない演技で、コンダコバが28.750、カナエバが29.100。
最終種目はボール。コンダコバは予選のボールでミスを犯し、種目別ファイナルへの進出をロシアのディミトロエバに譲っていて雪辱をはらしたいところであったが、座の姿勢から足でボールをつきあげるところで、ボールが遠くに流れて落下。その箇所以外は正確なピボットとエネルギーのある演技を見せたが、痛いミスが出てしまった。
最後の種目まで集中力を保ったのはカナエバの方であった。
これぞ新体操、と呼べるほど音楽と動きがぴったりと合い、すべての無駄を排除して、美しい動きを見せるカナエバ。1分30秒の演技を見終わると、まるですばらしい映画を見たような充実感があった。
この日最高の29.350を出し、結果、どの種目もカナエバが上回って、コンダコバが銀メダル、カナエバがチャンピオンの座についた。
カナエバ、コンダコバともに、他の選手とは格の違う世界に到達した。空気を切り裂くような迫力を見せるコンダコバ、丹念に練り上げて磨き上げたまるみを見せるカナエバ。表現方法は違うが、難度の精度、手具操作の複雑さ、論理性のある構成、無駄のない実施力、どれをとっても誰も何も文句をつけられないほどの領域に入っている。その上で、音楽からくる感情を身体全体で表現し、新体操の進むべき道をしっかりと指さしてくれているようであった。