【レポート】第62回全日本新体操選手権大会(個人)

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【個人演技】
■一年の総決算となる全日本新体操選手権大会が代々木第一体育館で行われた。
■個人総合で注目すべきは昨年に続き今年のインカレにおいても優勝した北村選手(花園大学)
とにかく手具操作・徒手能力・タンブリング等、全ておいてバランスのとれた選手でミスが少なく、またミスをしても後に引きずらないメンタル的にも前向きな選手であるが本大会は違った。
スティックの演技における小さなミスを振り払うように挑んだリングの演技においてもリングが場外に出てしまう痛恨のミス、優勝争いから大きく順位を落とし、個人総合では17位、大学一年目にして全日本優勝経験を持つ彼には苦い経験となった。
今年の悔しさを学生生活最後の年となる来年へのバネとして欲しい。
■社会人では大学卒業後にカナダ・デンマークでの男子新体操普及活動を経て本大会に挑んだ出来田選手(国士舘RG)が善戦、その大きな体を存分に使ったダイナミックで力強い動きと、それとは対照的に繊細なタンブリング・器用な手具操作を武器とし、選手や新体操に詳しくない一般の観客にもわかりやすい演技、「会場が盛り上がる演技」をする選手の一人である。
そんな彼の演技にはリスクの高い技がいくつも存在する、その中の一つが投げ技の3回前転、技の難度も現在のルールで最高ランクとなるD難度の技である。
昨年の全日本選手権・個人総合で出来田選手はクラブの演技の終盤でこの技に挑戦し、失敗している。その雪辱を晴らすように本大会では見事に3回前転を成功させ種目別3位の好成績で決勝にコマを進める。
■投げ技といえば鈴木一世選手(花園大学)と藤田朋樹選手(青森大学)が有名であるが本大会では両選手、文字通り「明暗」が別れた。
本大会の鈴木選手はとにかく落とさなかった。見ている誰もが落とすだろうと思うようなものも落下するギリギリまで粘ってキャッチしていたのと対照的に、一見 取れるように見えた投げ技を何本も落としてしまった藤田選手、試合後に多くの選手から「代々木体育館じゃなければ…」という言葉が漏れる。そう言わせる要因はこの体育館独特の「照明」にある。
「手具が消える体育館」とまで表現されるこの体育館の照明、
先に述べた出来田選手も種目別決勝のクラブの演技終盤で挑んだ3回前転において、回りの観客も投げた本人も投げた瞬間に取れると思うほど改心の投げであったが、正確に彼の元に落下してきた手具を照明の光の中に見失ってしまい落下となった。
試合後、藤田選手に「なぜそこまで臆せずに投げ技が出来るのか?」と質問したところ「投げ技が楽しい、出来なかったらどうしようという考えよりも、絶対にキャッチしてみんなを驚かせようという気持ちの方が遥かに強い」との事。
■そして去年に続いて今年も全日本を制したのは春日克之選手(青森大学)
この選手の特徴はなんと言ってもその動きである。
動きの大きさ、可動域の振り幅、高い跳躍力、強靭な足腰、何よりもそのメンタルの強さ。
全国屈指の選手が集まる青森大学においていつでも誰よりも貪欲に練習をしていた春日選手、ジャージを着ている姿はとても華奢であるがフロアに立つとそのコンパクトな体からは想像もつかないほど大きな選手に感じるのは過去の大会後に審判から「動きは良いが演技が小さい」との指摘を受け、この指摘に対してひたすら自分なりの答えを出そうと努力をしてきた結果である。
大会二日目の種目はクラブとロープ、春日選手はクラブの後にロープという試技順、
動きに重点を置いた春日選手の場合、投げ技にやや難があり二個同時投げ等のあるクラブを苦手としていたが、このクラブの演技を完璧に終え残すは4種目の中で一番落下のリスクが低く、なおかつ春日選手が得意としているロープの演技のみ
「クラブが終わった瞬間に頭の中で『連覇』が浮かびませんでしたか?」との問いに
「一瞬、頭の中でそれがよぎった、次が得意種目のロープなのでなおさらその気持ちが膨らみそうだったけれども、過去にその油断からミスをした経験があったので自分の中でその気持ちを必死に抑えた」との事。
その結果、4種目を無事に終え大学生活最後の大会を日本一という最高の形で締めくくった春日選手、卒業後は上京し、パフォーマンスの仕事に就くことを考えており、挑戦できる環境であれば、また来年も社会人選手として新体操を続けたいという豊富を笑顔で語った。