第37回世界新体操選手権レポート6

報告者:山﨑浩子

現地9月20日、世界新体操選手権バクー大会5日目は個人総合決勝が行われた。
4日間にわたる予選を経て上位24名(各国最大2名)が決勝に進出。
日本から出場している皆川夏穂は予選13位で、大岩千未来は21位で決勝を迎えた(喜田純鈴は個人総合対象外)。
予選13位~24位グループ(Bグループ)が先に4種目を演技するシステムであるが、試技順2番で登場したのは皆川。

皆川はボールの種目からであったが、慎重に演技を行い、落下は免れた。
慎重になるがあまり、小さな投げのキャッチでも両手が出る場面があり、19.900と若干苦しいスタート。
20点台には乗せたいところであった。
D1(BD身体難度、Sステップ)4.3
D3(AD加点対象となる手具操作、Rリスク=手具を投げ上げ、2回転以上の転回を行う)7.5
E(実施点)8.100 計19.900

大岩はフープからのスタート。
出だしのローテーションが決まると、落ち着きを見せ、すべてのローテーションが決まった。
会場からも大きな拍手がわき、これまでで最高の演技を見せた。
1箇所投げが少し逸れたが、1種目目のスタートは素晴らしいものであった。
D1 5.1
D3 8.0
E  7.750 計20.850
21点台も見えてきた。

2種目目の皆川はクラブ。
MGキックのローテーションが回り切れず、クラブの投げの準備に手間取る箇所もあったが、なんとか落下なしで、そしてADも比較的入れて演技を終えた。
D1 4.1
D3 9.0
E  8.050 計21.150

大岩はボールの種目。
前半は落ち着いて演技していたが、中盤のパンシェバランスでの転がしでポトリと落下。
後半は少し我慢をしながらの演技となった。
D1 4.8
D3 6.9
E  7.550 計19.250

高得点が出づらいリボンから始めたブルガリアのTASEVAや、ジョージアのPAZHAVA、フランスのMOUSTAFAEVAらがいるため、一時は日本勢が1位と2位。
もしや2枠行けるかと期待させる展開となった。

皆川3種目目はリボン。
予選時には、出だしの投げで結び目を作り、BDが0点、合計点9.300という前代未聞の得点であったこの種目。
出だしで同じことを繰り返さないようにと意識しすぎてか、結び目は作らなかったが、投げが大きくなる。しかしなんとか回転を入れてRの条件を成立させた。他の場面でもスティックの真ん中をキャッチするなど苦しみながらも落下なしで演技。
観ているこちら側がドッと疲れるような演技であったが、まさに耐えた演技だった。
D1 4.3
D3 6.6
E  8.050 計18.950

大岩はクラブの種目。
1か月前にボールとクラブの曲を変更したため、予選時にもボールとクラブでは落下ミスが出ているが、好調に見えた前半から中盤にさしかかったところで、ADでポトリと落下。そのまま耐えられれば良かったが、ADの連続の際、投げが逸れて、クラブでクラブを押さえようとしたが間に合わず、落下。
2度の落下ミスで順位も後退する。
D1 5.0
D3 6.7
E  6.700 計18.400
この時点で2枠は厳しい状況となった。

最終種目は皆川がフープ。
落下しそうなところは安全策で臨み、 比較的ADも入れ込んでいたが、最後までやり切ろうとしてタイムオーバー(1分32秒)。
D1 3.9
D3 8.3
E  8.200 P0.1 計20.300

大岩の最終種目はリボン。
ローテーションも美しく決まったが、中盤のADでやはりポトリと落下。
構成が崩れるほどの落下ではないが、移動なしの落下でも0.5の減点があるため、惜しいミスであった。
D1 5.2
D3 6.0
E  7.650 計18.850

大岩は最初のフープの種目が良すぎたと言えよう。あまりにも良くて、ボールでもうひとつうまくやりたいという欲が出てしまった。
その割には体力を幾分使い果たしてしまったこともあり、心と体のバランスが取れなくなってしまったのであろう。
新体操では過度なやる気が手具感覚を狂わせることもある。
いかにフラットな状態で行えるかが重要であるが、大岩は今後そういったところを培っていかなければならない。

皆川の4種目総合点が80.300
大岩の4種目総合点が77.350
いずれもパーソナルベスト。

Bグループが終わった時点で皆川が3位で大岩が7位。
Aグループ(予選1位~12位グループ)が12名いるため、プラス12だとして皆川は15位。
オリンピックの切符が与えられるのは個人総合決勝16位までのため、Bグループで4位までに入っていれば、切符獲得が決定。
日本は開催国枠を使うことなく、なんとか1枠を獲得した。

Bグループ1位はブルガリアのTASEVA。
以前のTASEVAからするとだいぶクオリティが落ちていて、重さや緩さを感じるが、決して良い内容ではないながら落下ミスはなく、
4種目合計は82.000

2位はウクライナの POHRANYCHNA。
1種目目のクラブの種目では、ジャンプターンでの持ち替えの際に落下ミスをしたが、他はうまくまとめた。
ウクライナにしては珍しく音楽を感じさせない選手、つまりBDやADといったテクニカルに特化した選手であるが、いまのルールが作り出している選手だと言えよう。
4種目合計80.575

3位皆川80.300
皆川は総合点で80点に乗せたのは初めてのことである。

4位は地元アゼルバイジャンの AGHAMIROVA。
この選手も、いまのルールによって上位に上がってきている選手。
ひと昔前のルールでは決勝にすら上がることはなかったであろう。
新体操は手具と体を使い、音楽を表現し、美しさを競う競技であると思っていたが、現在のルールでは肩が上がっていても四肢が汚くても、それを上回るほどのADがこなせれば得点を稼げる。
新体操という競技が発展する上で、そこに問題はないのかと考えさせられるのは確か。
しかし美しくないとは言え、 AGHAMIROVAは地元の期待を背負って、頑張りぬいた。難しいADも果敢に挑戦してアゼルバイジャンに1枠をもたらした。押しつぶされそうなプレッシャーがあっただろうに、戦い抜いたその精神力に拍手を送りたい。

5位スロベニアのVEDENEEVA。78.650
6位ジョージアのPAZHAVA。77.350

2人とも実力者であるが、VEDENEEVAはボールで大きな落下があり、PAZHAVAも最後の種目クラブのラストで落下。
日本が開催国を使用しないため、VEDENEEVAは切符を獲得する可能性は残されているが、PAZHAVAはこぼれてしまった。

7位大岩。77.350。PAZHAVAと同点であるが、タイブレーク(=4種目の実施点の合計)により大岩が下位。
8位ウズベキスタンのFETISOVA 77.250

フランスのMOUSTAFAEVAは落下なしでもBDの柔軟性が足りないためか得点が伸びずにBグループ11位、ルーマニアのMAILATは予選では安定感をほこっていたが、決勝ではすべての種目で落下ミスを犯して最下位となった。

Aグループの試技順は
イタリアのBALDASSARRI
ウクライナのNIKOLCHENKO
ロシアのDina AVERINA
ベラルーシのSALOS
USAのGRISKENAS
ベラルーシのHALKINA
イスラエルのASHRAM
イスラエルのZELIKMAN
USAのZENG
イタリアのAGIURGIUCULESE
ブルガリアのKALEAN
ロシアのArina AVERINA
と実力者ぞろい。

ロシア2名
イスラエル2名
イタリア2名
ベラルーシ2名
USA2名
ウクライナ1名
ブルガリア1名

強豪国であるウクライナやブルガリアがAグループに1名しか送り込めていないという状況である。

個人総合決勝を制したのはロシアのDina AVERINA。
1種目目では珍しく落下があり、リボンでは投げが乱れ、ボールでも投げに移動があるなど、本来のDinaのパフォーマンスではなかった。
予選1日目に1演技、2日目に種目別決勝まで入れて3演技、3日目に1演技、4日目に種目別決勝まで入れて3演技、計8演技を行ってきて、今日は1日で4演技を行ったためか、疲労を感じさせていた。
それでも落下は1回におさえ、4種目合計91.400。
金メダルをものにした。

2位はArina AVERINA。
Arinaも珍しく、MGキックでのローテーションで崩れるなどのミスが出たが、落下ミスはなく、91.100。

3位はイスラエルのASHRAM。
1種目目のクラブではダイナミックで勢いのある演技を見せ、23.500という高得点をたたき出したが、リボンではスティックにリボンがからみ、フープではMGキックでのキャッチで落下するなど、個人総合決勝はなにか違う空気なのだと感じさせた。
4種目合計89.700

4位はブルガリアのKALEAN。
4種目を落下なしで演技し、ブルガリアの威信をキープした。
4種目合計86.275

5位はウクライナのNIKOLCHENKO。
非常に美しく音楽も感じさせてくれる選手であるが、2種目目のクラブの出だし、得意のドゥミポワントでのローテンションが決まらず、直後のADで落下。19.500でメダル争いから外れてしまった。
4種目合計84.150

6位はイタリアのAGIURGIUCULESE。83.500
7位はイタリアのBALDASSARRI。83.250
8位USAのGRISKENAS。83.000
9位ブルガリアのTASEVA。82.000(Bグループ1位)
10位USAのZENG。81.850
11位イスラエルのZELIKMAN。81.750

ZELIKMANも安定感を誇る選手であるが、フープではRを場外でキャッチ。ボールでもキャッチミスで場外して予備手具に差し替えるなど、珍しく大きなミスが出てしまった。

12位ウクライナのPOHRANYCHNA。80.575(Bグループ2位)
13位皆川。80.300(Bグループ3位)
14位ベラルーシのSALOS。79.300

SALOSは1種目目のリボンで投げが絡んで落下。
2種目目のフープは足キャッチの後、落下したフープが前方に大きく転がり、走って取り戻した。
最終種目のクラブでもラストのADで落下するなど良いところがなかった。

15位ベラルーシのHALKINA。79.000
HALKINAも2種目目のクラブこそ大きなミスはなかったが、3種目目のリボンでは結び目ができたのか、ほどくことなく予備手具に差し替えて16.200。
あわや1枠を逃すかという展開であったが、最終種目のフープでなんとか踏ん張り、どうにか16位以内にすべりこんだ。
Aグループの選手がこれほど下位に落ちてくるのも珍しい大会であった。

16位アゼルバイジャンのAGHAMIROVA。78.725(Bグループ4位)
17位スロベニアのVEDENEEVA。78.650
18位ジョージアのPAZHAVA。77.350
19位大岩。77.350
20位ウズベキスタンのFETISOVA。77.250
21位ハンガリーのPIGNICZKI。75.500
22位スペインのBEREZINA。75.250
23位フランスのMOUSTAFAEVA。74.850
24位ルーマニアのMAILAT。70.850

大岩は昨年の23位から順位を上げたが、まだまだ上に行ける力を持っている。練習の波を作らず、小さな努力を積み重ねていけば、皆川と良い勝負ができるようになるであろう。まずは種目で21点台を出すことを目標に、4種目合計で80点台に乗せられるようにしなければならない。
皆川はリボン以外で21点台、22点台がほしい。リボンも20点台、21点台に乗せる努力をしなければならない。
皆川とベスト10の選手を比較しても、持っている力にさほどの違いはない。
しかし、いざこの1本にかけるという時に、まだまだ弱さが露呈する。
以前より数段良くはなっているが、もう一息、自分の力を出し切るということに挑戦してほしい。

USAのZENGはさほど美しくないし、つま先やひざの曲がりなどはもっと減点されても良いとは思うが、アゼルバイジャンのAGHAMIROVAと同様に、自分の持っている力を出すことには長けている。
皆川にもそういった強さが必要である。

今回日本はオリンピックの切符を1枠獲得したが、もう1枠は2020年4月のワールドカップシリーズランキングで上位3位に入ることで獲得できる。
すでに2枠を獲得した国は除外され、1枠目を獲得した選手もランキングの対象外となる。

つまり皆川がW杯シリーズに出場することは可能であるが、皆川の力で1枠を獲得することはできず、大岩と喜田純鈴でもう1枠獲得にチャレンジするわけである 。

ロシア、イスラエル、ブルガリア、ウクライナ、イタリア、USA、ベラルーシは2枠獲得しているので除外。
アゼルバイジャンと日本はもう1枠を狙って2番手以降の選手たちが参戦。
1枠も獲れなかったスロベニア、ジョージア、ウズベキスタン、フランス、ルーマニアなどは1番手が参戦。
個人総合決勝には残れなかった韓国、中国、カザフスタンなども1番手が参戦することになり、決して楽な戦いではないが、まったく可能性がないわけではない。
まずは疲れを癒し、早めの再スタートを切って、もう1枠獲得をめざしたいところである。

明日21日は団体総合が行われ、2018年の予選を勝ち抜いた24か国によるオリンピックへの挑戦が行われる。
すでにオリンピックの切符を獲得しているロシア、イタリア、ブルガリアを除いて、上位5か国が切符を獲得することになる。
日本からはフェアリージャパンPOLAが出場する。
大会情報・結果