第53回NHK杯体操 女子総括

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久しぶりにNHK杯の「怖さ」を見せ付けられたような第53回大会。
毎回大きな国際試合の選手決定競技会となるこの試合独特の空気感、緊張感・・・。選手それぞれの想いが交錯する中、世界選手権の代表3人とユースオリンピック代表が決まり、笑った選手、泣いた選手がはっきり別れた大会となった。
NHK杯初優勝の笹田夏実選手(日本体育大学)。
4月から日本体育大学へ進学。先月の全日本選手権、今回の事前記者会見を通しても、かなり自信に満ちた発言をするようになり、練習や試合中もニコニコと笑顔が増え、本当に楽しそうに体操をするようになった「なっちゃん」。
その自信は演技中の技のこなし方、捌き方にも表れてきているように見えた。
特に、今やトレードマークとなった平均台の開始技、ロンダート~伸身宙返り1回ひねり(G難度)は全日本選手権から失敗なし!さらに伸身姿勢もよくまっすぐに保たれるようになっており、磨きがかかっていた。
競技前の練習の調子はあまり良くなかったと言っていたが、本番ではしっかりと合わせ、一つ一つの着地までを狙いにいった演技を見せた。そこもまた、「なっちゃん」の成長したところと言える。日本のチャンピオン・エースとして世界選手権に向けてさらなるパワーアップを期待したい。
2位で代表入りしたのは寺本明日香選手(中京大学)。
こちらも大学に進学、髪の毛の色も少し明るくし、「お姉さん」になった印象。事前記者会見で「一週間前に足首を痛めて、調子はあまり良くない」と言っていたが、練習を見ていると、全日本選手権の時よりもむしろ調子が上がっているのではないかと思ったほど。ゆかでは屈伸ムーンサルトを1本目に入れる積極性も見せた。段違い平行棒では「(バーのしなり方と身体が)全然合わなかった」と言いながらも、持ち前の調整力でしっかりと通しきった。
世界選手権に向けて寺本選手に求められる事は、まず、「怪我をしないこと」かもしれない。心身共に最高の状態で大舞台に望んでほしい。
3位に滑り込んだのは井上和佳奈選手(筑波大学)。
彼女も今年から大学生。環境が変わったが、本人は伸び伸びと体操をしている様子が伺える。しかし、今大会は井上選手にとって少し我慢の試合となった。
出だしの跳馬では入りのロンダートで膝が抜けてしまい、あわよくば怪我につながりかねないミス。しかし、急遽1回ひねりで安全に着地をおさめにいったところはさすが。平均台でもターンで大きくふらつくミスがあり、ヒヤっとするがこれも落下せずに最後まで通しきる。最終種目では周りがミスをしてバタバタする中、冷静に、かつ丁寧に技をこなし、最後の最後で逆転して代表の座を掴んだ。
このような「大過失をしない」井上選手の強みを生かしながら、世界選手権に向けて体線などの実施、Dスコアのアップが必要かと思われる。元々脚力の強い選手だけに、期待したいところである。
悔しい悔しい村上茉愛選手(池谷幸雄体操倶楽部)と美濃部ゆう選手(朝日生命)。村上選手は苦手な平均台もしっかりと通し込んで準備をしてきており、「これはいける!」」と思ったが、とにかく失敗さえしなければよかった得意のゆか、抱え込みルドルフでまさかの手をつくミスにより戦線離脱。
ここで美濃部選手にチャンスが回ってきたわけだが、ラインオーバー数回と手を着くミスによりチャンスをものにできず。
村上・美濃部両選手とも、来月の種目別選手権での代表入りを目指す。
もう一人悔しい思いをしたのが今回メディアからも大注目だった新星平岩優奈選手(三菱養和体操スクール)。先月の全日本選手権初出場でいきなり3位に食い込み、今回、初出場のNHK杯でいきなり1組での演技。カメラが周りを囲み、ポディウムの上での演技は初めての選手にとっては非常に緊張するものである。出だしの跳馬は良かったのだが、段違い平行棒で少しリズムを崩し、平均台でまさかの3回落下。全日本後に手首の痛みがあり、あまり通し込みができなかったという種目でNHK杯の洗礼を受けることになった。しかし最後の最後まで涙をこらえながら、平岩選手の個性あふれるゆかの演技を演じきった。
辛く、苦しい試合だったが、彼女の将来にとって大きな財産となる経験であっただろう。
そして、ユースオリンピック代表に決まった宮川紗江選手(セインツ体操クラブ)。
日本人離れした脚力、そして、すばらしいテクニックを持ち味に、跳馬ではワールドクラスの実施のユルチェンコ2回ひねりで15.150を叩き出し、ゆかでは伸身前宙~抱え込み前宙ダブル、最終タンブリングに空を飛ぶような伸身ダブルを持ってくるなど(14.050)、ユースオリンピックではしっかりと「日本にもゆか、跳馬の強いこんな選手がいるんだぞ!」とアピールしてきてくれることだろう。
段違い平行棒で構成要求がまだ一つ足りていないのでそこが課題であるが、Eスコアに関しては高い評価を得られる選手なので、今後ますます期待の若手選手である。
明名亜希子