第67回全日本体操種目別選手権・女子総評
今回は優勝者が代表入りのチャンスをつかむというプレッシャーの中での種目別決勝大会となったため、「心」の強さがキーとなった。ポディウムの上で一人ずつ演技するという緊張感の中、精神的な部分をうまくコントロールできるかどうかが勝敗の分かれ目となったと言える。
その中でやはり若手選手にはまだない経験値を持つベテラン美濃部ゆう選手(朝日生命)の精神的な強さが光った。技だけでなく、ダンス、振付けのこなしを「ここ一番」で今日のように攻めた姿勢で実施できるのは戦い方を知っている選手にしかできないものであると言っても過言ではない。「まだまだ若い選手には負けない」という記者会見での言葉の通り、意地を見せた、見ている側にそのパワーが伝わってくるような演技であった。
そういう意味では逆に課題を残したのが村上茉愛選手(池谷幸雄体操倶楽部)。跳馬ではパワフルかつ安定した実施で2本の跳躍をまとめ、圧倒的な強さで優勝したのだが、最終種目、最終演技者という場面で、かつ、「勝って当然」「狙っている」緊張感の中、素晴らしい実施で最終タンブリングまでをこなし、そこからの3回ひねりの失敗は、体力面の問題もあるが、やはり、精神的なものが大きかったと思われる。これから世界選手権に向けてさらに技を増やし、Dスコアをあげようとしている中で、どれだけ身体的・精神的に“通し込み”ができるかがキーポイントになってくるであろう。今後、伸身ムーンサルト(H難度)などを加えDスコアを6.7まで引き上げる予定にしているということなので、女子日本人初の世界選手権でのゆかでのメダル獲得に大いに期待したい。
いつも「安定している」「失敗しない」と言われている寺本明日香選手(レジックスポーツ)もこの心理戦で苦戦した選手の一人であったと言える。一人だけ代表争いはしなくて得意の段違い平行棒での失敗は本当にめずらしいもので、関係者、ファンを驚かせた。
その隙にすっとうまく入り込んだのが笹田夏実選手(帝京高校)。「少し力んでしまって力でやってしまい、うまくスイングができなかったのを必死でこらえた」と本人も言っていたが、リズムが狂ってしまった時にしっかりと対応できたのが大きな失敗につながるのを防いだと言って良いだろう。笹田選手は「自分に代表のチャンスがあるのは平均台で優勝することだろう」と思っていただけに、段違いで勝てたのは次の種目の平均台の演技をする上で、かなり精神的に楽になったのではないだろうか。
今年の9月30日から開催される世界選手権では精神的にも身体的にもさらに強くなった日本女子チームの活躍を期待したい。
もう一つの今回の代表争いの特徴として、世界選手権・東アジア競技大会共に、社会人・大学生・高校生とうまくミックスされた代表チームになったことが挙げられる。
特に東アジアには全日本個人総合からどんどん上達が見られた井上和佳奈選手(水鳥体操館)、初代表入りの脚力の強い関口未来選手(群馬ジュニアスポーツクラブ)、シニアでは初めての大きな国際大会出場となる表現力豊かな湯元さくら選手(ならわ体操クラブ)、昔からジュニアナショナルや派遣試合では活躍していたが大学生になり、やっと選考会から代表を勝ち取った「安定」が持ち味の大瀧千波選手(国士舘大学)・長身を生かした演技が魅力の野田咲くら選手(朝日生命)に、北京・ロンドン2回のオリンピックを経験したベテラン新竹優子選手(羽衣体操クラブ)が加わり、おもしろい顔ぶれとなっている。
新竹選手や美濃部選手・寺本選手のような経験のある選手が日の丸をつけて戦うとはどういうことか、その戦い方やチーム作りの中心になってくれることを期待したい。