北京オリンピック男子個人決勝レポ
これも10点を廃止したルールの影響なのか。昨年の世界選手権同様、大過失の目立つ試合展開の中、ミスを最小限に抑え、A得点合計でも優位に立つ中国の楊威が優勝。あん馬でミスを出した内村は2位、つり輪でアクシデントに見舞われた冨田は4位となった。
<第1ローテ>
日本から出場の冨田、内村はゆかスタート。優勝候補の楊威ら、予選上位6名がゆかから開始する。この班の選手の動向がメダルを占うのに重要。その中にあって、冨田(13位)と内村(2位)は上々の滑り出し。内村は団体決勝同様、最後の着地を決めてアピール。楊威はライン減点あるも無難な滑り出し。あん馬スタートの陳一氷は落下。
<第2ローテ>
あん馬最初の演技者となった内村はフロップの途中で落下。気を取り直してEフロップを成功させるが、その後に行う予定のコンバインの途中で落下。その後は気を取り直して13.275を獲得。冨田は素晴らしい演技で15.425をマーク。陳一氷は得意のつり輪であん馬のミスを挽回する16.650を獲得。
(フロップだのコンバインだのと、あん馬の表現は難しいのだが、これらの技は一把手の上で旋回や転向を行うもの。通常は2つの把手を使うが、一把手上なのでちょっとのバランスの乱れで落下につながる。見た目はどの旋回技も同じようだが、旋回を行う場所によって難度がかわってくる。)
<第3ローテ>
つり輪の楊威はA得点7.5を得て16.625を獲得。そして冨田は屈身ヤマワキでバランスを崩して臨機応変にA難度技に切り替える。その後、終末技の離手直前に左手が先に離れてしまい、空中分解するように着地。終末技なしと判定され13.850。立ち上がって着地姿勢をとったが、この予期せぬ冨田のアクシデントに、彼の後半種目への影響はどうなのか心配は消えない。続く内村は、若干慌ただしい実施となったが、つり輪では国内大会で14点台しか獲得していなかったが15.200を出した。代表に決まってから彼の努力が失敗直後の種目で実る。跳馬で前転とび前方伸身宙返り2回半ひねり(ヨー)を跳んだヤンテヨン(韓国)がトップ。
<第4ローテ>
楊威が跳馬のロペスをまとめてトップに。冨田はアカピアン(伸身カサマツとび1回ひねり)をまとめ、内村もシューフェルトの着地をほぼ決めて得点を伸ばす。
<第5ローテ>
平行棒で楊威が演技をまとめ16.100を獲得。冨田も内村も素晴らしい演技で得点を伸ばし、内村4位、冨田9位にまで躍進。追い上げて最終種目鉄棒を迎えることに。なお、予選2位のハンビュッフェン(ドイツ)はミスを出して得点を伸ばせなかった。ホロホルディン(ロシア)も堅実な演技を続け、メダル争いに加わる。1位楊威、2位ヤンテヨン、3位ホロホルディン…。得点差からみて1位以外のメダル争いは混とんとした状況で、最終種目までもつれ込んだ。なお、鉄棒の最終演技者陳一氷は途中でプロテクターが切れ、演技を中断し、個人総合争いを自らあきらめた。
<最終ローテ>
ホロホルディン、鉄棒のアドラー1回ひねり(E難度)で肘を大きく曲げて力を使うミスで15.050。冨田、コールマンの懸垂でゆがんだが最後の着地を決めて15.675を獲得し、ホロホルディンを抜く。あん馬、ヤンテヨンは途中の足割れ、そして交差ひねりでほとんど腰をおろしてしまうミスで14.300に終わる。鉄棒の内村、コールマン後にひじを曲げたりバランスを崩しそうになるところもあったが持ちこたえ、冨田同様、伸身新月面の着地を止め15.400を獲得しトップに。跳馬の屈身ツカハラとび2回宙返りの着地を止めて高得点を獲得したフランスのカラノブは最後のゆかで15.350を獲得して冨田を抜く。鉄棒のハンビュッフェン、コールマンで痛恨の落下。世界選手権2位のドイツ期待のホープも今日は不本意な戦いぶりで涙も。そして最後の演技者楊威。不得意種目だけあってぎこちない動きを続けてしまうが、最後まで演技を全うしガッツポーズ。この結果、優勝は楊威、2位は内村、そして3位にカラノブ、4位冨田。
最後まであきらめない姿勢が銀メダルとそれ以上のものを我々に与えてくれた。結果以上にそれを大切にしていけば必ず頂点が見えてくる気がした。
個人総合銀メダルの内村選手
(撮影 竹内里摩子)